20210420|迷惑と音楽

20210420|迷惑と音楽

先週の週末のUmoreでの結婚式演奏でのこと。

f:id:naoyuki0730:20210420184749j:image
いつものように準備をしていたところ、4、5歳くらいの男の子がトコトコやってきて、ピアノを弾きたそうにしていました。式の雰囲気にもよるのですが、やわらかい空気があるなと感じたときは、式が始まるまで好きなように弾いてもらったりします。

恥ずかしがりながら触れるだけの子が多い中、この男の子はバンバンと叩くように手のひらで弾いていました。子どもからすると格好の遊び道具になるため、きっと楽しくなってワチャワチャしちゃったのでしょう。

これを見ている大人側からすると、式の雰囲気が壊れてしまう(この日はそういうわけではなかった)、他人に迷惑がかかる、ピアノの「ちゃんとした」弾き方ではない、単純にワチャワチャ弾くピアノの音がうるさい、などというセンサーが働くので、当然「やめなさい」となり、どんな立場の人であれ、ここでどう振る舞うのが良いのかの判断が難しいところだと思います。

僕はピアノというのは、触れるだけで響きを生み出せるおもちゃのようなものでありながら、使いこなすには難しい楽器だと思っています。というのは、とても精巧に作られていて(といっても平均律の世界ではありますが)、手を置くだけで簡単に音が出てしまうため、苦労して音を出すようなドラムや弦・管楽器に比べると「音を聴く能力」が初めの段階から欠けやすいのです。さらに楽譜を読めばさらに簡単に弾けるようになってしまうので、後になって「聴くこと」を学ぶという変な現象が起こったりします。

そういう意味では、子どもが触れる楽器としては非常にハードルが高いので、まぁまぁ、これから使い方を覚えていこうね、という気持ちを込めて、この男の子に「小さい音を出してみよっか」と一緒に遊んでみました。

面白いのは、バンバン弾いていた男の子が、ときどき指一本で「ぽーん」っと小さく弾くようになったことでした。もちろん一時経てば物足りなくなって元に戻って遊んじゃいますけど、こういう機会があると、ピアノには大きい音だけでじゃなくて、小さい音もあるんだよということを知れます。

とは言え、子どもの好奇心と大人の世間体のバランスを取るというのは難しいです。これは、家でピアノを練習していると、ご近所さんから「うるさい、下手な音で弾くな」と文句や苦情を言われてしまう状況と似たようなものかも知れません。

つまり、迷惑と芸術は隣り合わせであるということです。どこまでが迷惑をかけることなのか、どこまでが迷惑でないと感じることなのか。その調整こそが音楽家の仕事の一つです。実はライブ・パフォーマンスでもない、目立たないこういう仕事の方が、かえって音楽を通じた”柔らかい物事の捉え方”をダイレクトに伝えられるのかもしれません。その分やっぱり難しい仕事だなと思うけれども、とてもやりがいのある”空気を作る”仕事でもあるのです。